島唄

奄美の島唄は沖縄民謡とは違う。琉球音階ではない(徳之島より南の与論島は琉球音階らしい)。全くの素人が耳で聞いて沖縄の島唄との違いがはっきりと感じられるほどである。同じような三味線(奄美の楽器は三線とは言わない)を使い、雰囲気も似ているけれど、全くの別物と考えるべきだ。
さらに、奄美の島唄のなかでも徳之島と奄美大島の島唄は微妙に違う。言葉(方言)が違うだけでなく、同じ歌でも歌詞の内容が違うし、節回しも違うらしい。
徳之島でも島唄は盛んだ。空港からすぐの三叉路に最近の全国民謡大会で優勝した女の子の写真と一緒に「民謡の島」と書かれた大きな看板が立っているくらいだ。ただ大島と違って、いつ行っても唄者(うたしゃ)が唄ってくれるような店はない。
6月に「全島一民謡大会」があった。
亀津という島一番の都会の文化会館で行われた全島あげての民謡コンテストだ。ほかに大きな娯楽があるわけではないからか、500人ぐらいの人が集まった。人口2万に満たない島で500人は大観衆と言っていい。出演者は小学生からお年寄りまで30組ほど。半日がかりの大イベントだ。
私はこの前に何度か奄美民謡を生で聞き、元ちとせがティーンエージャーのころ(もちろんメジャーデビューする前)に録音したCDも持っているが、いまだにどの曲を聞いても同じに聞こえる。奄美民謡に関してはその程度の感性しかない。
この民謡大会はコンテストなので、とても上手な人もいれば、初心者のような人もいる。我ながら不思議だったのは、調子っぱずれな(失礼)人も上手な人もそれなりに聞いて分かるということだった。その感覚は聴衆の評価(会場の雰囲気)と一致していた。
感心したのは、中学生の女の子だった。最初は伴奏の三味線で出演したが明らかに主役のはずの年下の女の子より目立っていた。徳之島の島唄の演奏形式は伴奏と唄者の二人がセットで出てくるのがスタンダードで、伴奏も声を出すことが多い。二度目に出てきたときは、もちろん唄者(うたしゃ)だった。唄の内容はよく分からないがわざとらしくない哀調が印象的だった。60過ぎのおじさんの胸の奥をつんとさせる歌唱だ。芸術は悲しみのスパイスが利いていないと本物ではないと思う。その意味で彼女の唄は芸術の域に達しているように思った。
大会の最後にグランプリと聴衆が選ぶ大賞の発表があった。
彼女はグランプリは逃したがもう一つの賞をとった。私の感想が島唄をよく知っている聴衆と一致したのはうれしかった。この機会に森田〇〇さんの名前を記憶することにした。いつか元ちとせのように有名になったときに自慢できるように。

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