「島で会った鳥たち」で「平土野(へとの)の闘牛場」という言葉を見て、?と思われた方も多いのではないか。「闘牛場」というからにはカルメンのホセのような人がいて牛と戦うのかとそこまで想像した人もいるかもしれない。それも闘牛だが、日本国内の闘牛は牛同士戦わせるもので、人が死んだり、牛が死んだりすることはない。とても珍しそうなのだが、実は新潟県の山古志、佐渡島、隠岐の島、八丈島、宇和島にもあり、奄美では徳之島、沖縄ではうるま市、石垣島で行われている。
徳之島にはもともと闘牛場はいろいろなところにあったようだが、今はしっかりした観客席を備えた闘牛場は徳之島を構成する三町(天城町、徳之島町、伊仙(いせん)町)のそれぞれに一つずつある。このうち、徳之島町と伊仙町の闘牛場は屋根付きである。
天城町にあるのが「平土野の闘牛場」で、ここは谷間のくぼ地の地形を利用して作られた露天式の施設である。全体はすり鉢状になっていて斜面の芝生席に観客が座る。すり鉢の底は直径10メートルぐらいの円形の平面で、ここで牛が戦う。
見て来たようなことを書いているが、私が本番の闘牛を見たのははるか昔、今を去ること40年以上前のことだ。今でも変わっていないようだが、牛には「~牛」のような名前がついている。「牛」は「ごう」と読む。たとえば、「田中電気店」がオーナーだったら「田中電気牛」のような名前がつく。オーナーと関係なく強そうな名前をつけることもある。40年以上前に見たときは勝った牛のオーナーと思われる女性が突然、直前まで牛が戦っていたところに飛び出して舞い踊りをはじめた。ちょっとびっくりしたが、闘牛にはそれくらい人を興奮させる何かがある。
夕方道を歩いていると黒い大きな牛を歩かせているのに出会う。これもトレーニングのひとつらしい。牛と一緒に海に入って海水浴をさせているのも見た。牛も体が冷えて気持ちよさそうだ。
プチ移住中にタダで闘牛を見る機会があったのだが、行かなかった。天城町恒例のトライアスロン大会の前日に景気づけで闘牛大会を開催したのだが、天気予報は雨降りを予想していた。家にいて仕事をしていて当日の開催時刻になったら本降りの雨が降ってきた。
予定外の闘牛の話を書いたのは鳥獣戯画展の紹介をテレビで見たからだ。鳥獣戯画の丁巻に牛同士の戦いが描かれていた。角を突き合わせて頭を押しあっている。どう見ても徳之島で行われている闘牛と同じポーズだ。しかも相当な力を込めている。平安時代も今と同じ闘牛をやっていたとは知らなかった。