奄美の瀬戸内

昨夜のNHKの「72時間」は奄美の海上タクシーだった。奄美でそんなものが意味を持つのは大島海峡(瀬戸内)しかない。そこは大島と加計呂麻島にはさまれた細長い海峡だが、リアス式の入り組んだ海岸線のおかげでほとんど波が立たない。道路は海岸沿いに走っているので同じ島の集落に行くのに直線の海路で行った方が車で行くよりもずっと早いということが起きる。海上交通のほうが安全で揺れなくて早いのだ。毎朝一帯の中心地の古仁屋(こにや)の港から人を乗せて船が四方八方に出港していく。
今はこの瀬戸内にマグロの完全養殖の拠点があるらしい。あまり知られていないが、本当に美しい景色が見られるところである。一方で、過疎が進んでいるところでもある。40年以上前に調査で加計呂麻島の集落を回ったときは20代後半の私を見て「若い人が来てくれた」とお年寄りが喜んでくれたものだ。船乗りで世界中を回ったけれど、定年を機に島に戻ったと話してくれた人もいた。年寄りしかいない集落もあった。今になってみれば、長野県でもちょっと山のほうに行けばそんな集落が多いし、消滅した集落もある。加計呂麻島はちょっとだけ時代の先を行っていたのだった。
自分が乗った船が台風から避難するために瀬戸内に何日か停泊したこともある。朝起きてデッキに出たら、船は錨を下ろしていて近くに同じように避難してきた貨物船も見えた。幻想的な眺めだった。
もう一度あの美しい海を見たいが、たぶん無理だろう。その代わりに、2000年の9月号の『月刊日本語学』に書いた拙文をポストします。説明を加えたり、事実に基づいて修正を行ったりでちょっとだけ手を加えてあります。

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