今年も徳之島のSマンゴー園のマンゴーが届いた。島とのつながりを強く感じる季節である。
ここのマンゴーは香りも甘みも清涼感も強い一級品だと思っている。Sマンゴー園を知ったのは全くの偶然で6年前に島で暮らしていたとき、よく使っていた海岸沿いの道で看板と温室を見つけたのがきっかけだった。
「発送承ります」と書いてあったので、そこの事務所に行って発送票を書いた。近況報告と島の宣伝のつもりで友人や知り合いに送ることにしていた。そのときにお茶うけに出されたのが、実が大きくなる前に成熟したマンゴーだった。商品にならない大きさでも味は変わらない。実際に発送されるのは1ヶ月以上あとだと知っていたが、安心して送れる品物であることが分かった。
6月の末になると「今年の発送予約は締め切りました。どうもありがとうございます。」と看板が出ていた。マンゴー園の奥さんの話では、「7月に入ってから発送を始めてお盆の前ぐらいまでに予約分の発送が終わります。1年のうち本当に忙しいのはこの1ヶ月ぐらいです。」とのことだった。でも繁忙期の忙しさは並大抵のものではないだろう。余った分を市場に出すということもないようだった。育てたものを自分たちが決めた値段で必ず売り切るのは商売として最高だ。
島で暮らしていた間はマンゴーだけでなくいろいろな果物を毎日食べていた。島ではドラゴンフルーツ、パッションフルーツ、パイナップル、バナナがとれる。新鮮でおいしいからと毎日300~400円をフルーツに使ったら散財である。思ったより生活費がかかったのはそれもあったかもしれない。
ところで、ドラゴンフルーツがサボテンの実だということは常識になっているだろうか。朝、自転車で走っていると家の前でサボテンが大きな花を咲かせているのに出会った。日が高くなるとしおれてしまうのだが、何日か経つとそれが大きな実になるのだ。大々的なドラゴンフルーツ畑のようなものは見なかったので、島のなかで消費しているだけのようだった。
パッションフルーツという名前を聞いて「食べると情熱的になるんですか」と早合点をした人を知っているが、passionにはもう一つ意味があって、それは「キリストの受難」である。詳しい語源は何かで調べてください。パッションフルーツは好きかと言われれば「微妙」としか言えない。
本当においしいと思ったのはパイナップルだ。普通に売っているのは熟すまえに収穫したものだが、畑で熟したものは一部が傷んでいたりするかわりに強烈に甘い。でも、買うことができたのはほんの1,2回だった。栽培している農家が少ないらしい。
バナナはいわゆるモンキーバナナで小ぶりの青い果実が同じ軸に何房もついているのを吊るしておいて熟した実から順番に食べるということをしていた。これも産地ならではの楽しみ方だろう。
そして、マンゴーはS農園だけでなく島中で作っているので、小ぶり(S農園では売り物にならない大きさ)のマンゴーが島中にあふれていた。もちろん、値段的には全く違う(1個400円ぐらい)し、味もそれに見合ったものではあったが、マンゴーの季節には毎日のように買って食べた。一生分のマンゴーを食べたのではないかと思ったのだが、そのうちに口の中にちょっとした違和感を感じるようになった。アレルギーの一歩手前かと思って少し控えることにした。
S農園が固定客への発送だけで商売しているのは訳がある(と推察する)。品質的にはあの千疋屋にあってもおかしくないが、安定的に店に出すのが難しい。航空輸送にしても船を使うとしても欠航のリスクが大きい。毎年1回は台風のために欠航が生じる。2015年には何度も船が欠航した。ひどいときは1週間以上船が来なかったことがある。これでは流通経路に乗せるのは無理だ。というわけで知る人ぞ知る島の味なのである。