関西弁コーパスの聞き取り 続

4週間かけて「大阪神戸」の聞き取りを完了した。思ったより時間がかかったが、それだけの分量があった。それと、通して読むことで分かる表記のミスや勘違いを見逃さないよう注意していたのも時間を食った原因だった。
全体を通してみると質的にかなりばらつきのある資料だ。ヘファーナンさんのゼミの課題として50分の録音と文字化を行ったということらしい。学生は身近な人(祖父母、父母、おじおば、いとこ、知人)を話者としてインタビューしている。そのことにはいい面と悪い面がある。関係が近いが故にリラックスして話しているのはいい面が出た。成功した(と思われる)調査のときはとても自然な会話になっているのがわかる。近すぎるがために第三者に理解しにくいような内輪の話になってしまうことがあるのは悪い面が出たことになる。
学生が提出した課題というものは一般的に言って出来がばらばらなものでこの資料も例外ではない。文字化の際の聞き取りが甘いと感じられるものも、きっちりと文字化したことが分かるものもある。自然な会話になっているものもあれば、最後まで標準語で通してしまったり、会話よりは聞き取り調査に近くなっているものもある。インタビューアーのはずなのに話者より多く話しているものもある。
以上のように言語作品として見たときに問題のあるものもあるが、内容を問題にしなければ関西弁を代表している資料として差し支えない。欲を言えば、同じぐらいの規模でより統一した基準の調査によるコーパスがほかの研究者によって作られることを望む。同じ方言に複数のコーパスが存在することは弊害よりは利益が大きいと思う。
データを取るときに注意しなければならないのは話者の出身が大阪神戸にとどまらず、明石や淡路島、滋賀県、三重県、和歌山県にひろがっていることだ。話者の情報は別ファイルにまとめられているので、それを参照しながら採用する範囲をきめなければならない。
国研の大西さんの発表で「見ない」をミヤンと言ったりするのは関西弁地域の周縁の現象だとしていたと記憶するがこのコーパスでも確かに三重県など神戸大阪ではないところでミヤンと言っているようである。神戸大阪のコアの部分以外も含んでいることでそのような周縁部で見られる現象をこのコーパスで確認することができる。
もう一つ面白いと思ったのは、話者自身が「自分は大阪出身だが、ミヤンと言うのは○○の人だ」と自分の言語意識について話すことが見られたことだ。「○○の社長は『暑うおまんな』と言ったりするが、自分たちはもうそんな言い方はしない」という発言もあった。
私は関西弁ネイティブではないが、このコーパスを見ていて関西弁に対して持っていた思い込みが崩れるのを感じた。理由表現の「さかい」はほとんど出てこないし、もちろん「暑うおまんな」のような言い方をする人はいないようである。
上方の漫才や落語、吉本新喜劇で私の関西弁のイメージができているのだが、普通の関西人のことばはそれとは異なっているのではないか。私のイメージする関西弁は実際のそれより古いらしい。関西弁の「沢山」は「ぎょうさん」だと長い間信じていたが、このコーパスでもテレビのなかの鶴瓶も「ようさん」と言っているのだ。

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