友あり遠方より

フランスのフィリップさん(「共同利用型研究」にも登場されている)が茅野にご家族で来られたので国研の大西さんと会ってきた。ちょうど3年前コロナの気配などないときに3人で茅野の各所を回って以来だ。
フィリップさんはニース大学(最近はコートダジュール大学に改名!?)のフランス語方言研究者で奥さんは日本人、新潟大学に1年留学したことがあって、日本語でコミュニケーションできる。大事なことは日本語で読み書きもできて学問的な議論も余裕でできるのだ。日本語能力のある日本在住の外国人研究者は昔と違って沢山いるが、日本語学あるいは日本学専門ではないフィリップさんのような人は貴重だ。
話をしているとどんどん聞きたいことがでてくる。フランスは階級社会だと言うが日本とどう違うのか、イギリスのように階級で方言があるのか、パリの言葉は標準フランス語とどんな関係かなど。場所を変えたりしながら3時間近く話をしたが、とても足りない。
面白かったのはニースの街の人たちの分断の話だった。ニースはもともとギリシアの植民市(ニケイア)だったがそこにローマ人がやってきたところから分断が始まり、今に続いている。2000年以上の話だから根が深い。
私が用意していた質問はグロータース神父の父君を描いた小文(仏文)に出てきたthioisというのはどういう意味かだった。この言葉は難物で大学図書館にある一番大きな辞書(Grand Larousse)で調べても出てこない。フィリップさんも初めて見る単語だったようだが、スマホを取り出して5秒で「あ、ありました」。
なんと、ウィキペディア(仏語版)にあるのだそうだ。まさか形容詞がウィキペディアに入っているとは思わなかったので、私は調べていなかった。でも、フィリップさんに質問したことで疑問が解決した。
おみやげにいただいた本(Lectures de l’Atlas linguistique de la France de Gilliéron et Edmont Du temps dans l’espace)がまた有り難かった。ジリエロンのALF(フランス言語地図)のいろいろな項目を塗りつぶしで地図化したものに解説がついている。
ALFは見たことのある人は知っているが、決して見やすいものではない。LAJ(日本言語地図)のように調査地点に記号が押してあれば分布が直感的に把握できるが、ALFでは調査地点に語形がIPAではない発音表記で書いてある。分布を知りたいと思ったら自分で白地図に記号を押すか塗りつぶしをするかしかない。
上記の本は音韻の項目も取り上げていて、北部方言と南部方言(オイル語とオック語)の違いがよく分かる。ジリエロンは語彙の分布についてしか論文を書いていないので非常に新鮮だった。
帰宅して、気分がポジティブになっているのを感じた。研究者同士生で会って話をすることが研究を進める原動力になる。コロナを気にしなくてよくなるのはいつだろう。私が生きている間にそうなるのか心配になることがある。

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