島の台風

 台風11号は8月30日に南大東島で猛威を振るい、そのまま琉球列島の方向に向かってから一旦南下してそれから北上した。琉球諸島が強風圏を脱したのは9月7日になる。これは徳之島が大変なのではないかと心配になった。
 徳之島の物流の主役は鹿児島ー沖縄航路なのだが、台風が航路の邪魔をすることが予想されると鹿児島からも那覇からも出航しない。今回は一週間以上船が止まっていたのではないだろうか。台風が去れば航路が再開されるのだが、海上のうねりが残っていたり、強風が続いたりすると徳之島に寄港しないことがある。徳之島に船が来ない状態が10日以上続いていたかもしれない。
 7年前の徳之島生活では4ヶ月の間に3回台風に遭遇した。島の人は台風情報にはとても敏感で、台風が来ることが分かると食料の買いだめに走るのでスーパーの棚があっという間に空きだらけになる。真っ先になくなるのは牛乳で、次が卵、魚、肉、野菜、果物などの生鮮食料品だ。もちろん徳之島でも野菜を作っているが、そんなに生産量はなく、大抵の野菜は島外から送られてくる。バナナやパイナップルも島の生産量はゼロではないが、島内の需要を満たすだけの量はない。欠航が長くなるとスーパーの果物の棚にリンゴが並ぶ。普段は絶対に見ないものだ。島の流通事情に詳しいFさんによれば、スーパーには巨大な冷蔵庫があって、そこに非常用のリンゴが備蓄してあるのだとか。
 生鮮野菜が底をつくこういうときこそ手軽に大量に作れるもやしが活躍するはずだが、不思議なことに島のスーパーでもやしを見ることはない。もやし業者が存在せず、したがってもやしを使う習慣も家庭にないのだろう。台風のときだけでも誰かがもやしを作ってくれたら有り難いだろうと思う。欠航期間が10日続いたとして、そのうち台風の直撃を受けているのは2日ぐらいなのが普通だ。それ以外のときは普段通りの生活ができているので毎日新鮮なもやしがあったらと思う。
 どこの家も台風に備えてある程度の備蓄はあるのだが、それでも欠航が10日も続くと大変だ。私も困ってしまった一人だった。いまは缶詰やレトルト食品という便利なものがあるが、毎日缶詰料理はさびしい。
 徳之島は良港に恵まれないので、台風が通過した後でも風が強かったりうねりが大きかったりすると貨物船は徳之島に寄港せずに次の目的地に行ってしまう。これを土地の人は「抜港(ばっこう)」と呼ぶ。
 北隣の港は奄美大島の名瀬港で南隣は沖永良部の和泊になる。徳之島の西側には平土野(へとの)、東側には亀徳という二つの港がある。西風が強いときは亀徳、東風が強いときは平土野と使い分けることもしているが、本当に風が強いとどちらの港も使えない。
 名瀬は私が何度も訪ねているので知っているが天然の良港だ。深く湾入していて湾を取り囲む山は風よけになっている。しかも湾が広いので1万トン級の船でも湾内で転回できる。和泊は行ったことがないのでよく知らないが、地図で見たところでは多少のうねりがあっても港の中は静かなのだろう。
 徳之島を抜港するというのは名瀬と和泊には寄港するが徳之島は沖合を通過するということで、島の人にとっては悔しいかぎりである。
船が入港するかどうかは切実な問題で、島の人たちは本当によく知っている。「今日は入港はない」「明日は入港する」「朝、船が来ていたから午後になればスーパーに商品が並ぶ」などの情報は瞬時に島中に伝わる。だから、私は島の人に聞いてからスーパーに行くことにしていた。
 11号が去ってしばらくしたら今度は12号が発生した。11号と同じような進路をたどるらしい。島の人は大変だなと思う。

追記 12号は奄美地方をかすらないらしい。奄美はよいけれど、先島地方は11号に引き続いて猛烈な風雨にさらされる。毎年のことだけれど大変だ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です