神宮外苑の開発計画をめぐって諸方面から反対や抗議の声が上がっている。
報道に接したときに最初に思ったのは「抗議する相手が違う。都知事ではない。」だった。神宮外苑の大部分の土地を持っているのは明治神宮で開発をするのは三井不動産だという。明治神宮が承認しなければこの開発計画は実現しないのだ。最初からこの事実を報道していなかったマスコミもおかしい。
最近になって朝日新聞に開発計画についての詳しい記事が出た。これに開発計画を地図化したイラストがあった。それによると外苑にある絵画館をなくすらしい。
絵画館に入ったことはないが、外から建物を見たことは何度もある。あれが明治天皇にまつわる大事件の数々を描いた絵画を展示する建物であること、その建物自体がおそらく建築史的にも意味のある、いかにも戦前の近代建築であることは知っている。
国研のOBとしてそれ以上に大きな意義を感じているのは、国研が今から75年前に絵画館の地下で産声を上げたという事実である。国研はそのあと一橋に移転し、さらに北区西が丘に移ったあと最後は立川の現在地に落ち着いた。
一橋にも西が丘にもかつて国研がそこに存在していたことを偲ぶよすがはない(西が丘はオリンピックのための強化センターになった)。絵画館がなくなれば、国研の歴史を語るものは消滅してしまう。
世の中で「絵画館を残せ」と言う人を見たことがないので、あえて声をあげることにする。絵画館も神宮外苑の景観の一部であり、取り壊すとしたら惜しいことだ。ぜひ残してほしい。
おそらく、絵画館の絵はどこかにスペースを確保してそこに展示することにしているのだと思われる。絵画館の建物は消滅しても絵は残るからいいじゃないかというのが神宮の言い分だろう。開発計画の細部が分からないから全部想像なのだが。
絵画館自体は国の持ち物であり、明治神宮は今や関わりを持たないのだろうと思う。しかし、絵画館は明治天皇の遺徳を後世に示すために建てられたもので、明治天皇を祀っている神宮が絵画館を消滅させる開発計画を許すというのはおかしな話だ。断っておくが、私は明治天皇に対してプラスの感情もマイナスの感情もない。ただ、明治神宮どうなってるのと思うだけだ。
開発計画では高層ビルが2棟建つことになっているが、神宮は等価交換という仕組みで何階分かの権利を持ってそこから莫大な賃料を得るのだろう(あくまでも推測です)。神宮は宗教法人であり、税金を免除されている。そんなに稼いでどうする。せめてビル1棟だけ建てることにして現状の変更をもう少し控えめにすることはできなかったのだろうか。