撮影OKの博物館

東博の「古代メキシコ展」に行ってきた。最近はよほどのことがなければ松本を出ることはないのだが、「古代メキシコ展」はマヤ文明の遺物も展示している。一時、マヤ文字のことを調べていたことがあって死ぬまでにティカルの遺跡に行きたいと思っていたのを思い出したのだ。諸般の事情でもうそれは叶わぬ夢となったが、この機会を逃したら本格的なマヤの展示はもう見られないかもしれない。
上野を訪ねるのは5年ぶりになる。駅の様子も公園のたたずまいも変わっていて、外国人客が増えたのにも戸惑ったが、東博正面の巨大なユリノキが昔のままだったのにほっとした。
会場は時代順にテオティワカン文明、マヤ文明、アステカ文明を展示していて、お目当てのマヤはパレンケとチチェンイツァの2都市のものだった(ティカルはグアテマラ)。本で知っていたマヤの出土品は文字を記した石板やヒスイの仮面ぐらいだったので、紡錘や杯などの生活用品、小さな人形などに新鮮な驚きがあった。そのほか初めて知ることが多く、行ってよかったと思えた。
でも、気になることもあった。特別展の会場は写真撮影OKだったが、ガラスケースに貼り付くようにしてスマホで撮影をする人たちがいたことだ。展示品の説明を撮ってから、今度は展示品の撮影をする。いちいちアングルを考えたりして撮るので時間がかかる。撮影に夢中らしいけれど見ることには時間をかけない。撮影が終われば隣の展示物に移動する。しかもすべての展示物を撮影する勢いだ。
他人がどう観覧しようがそれに文句をつける権利がないことは分かっているが、困るのは離れたところから見ようとしても展示品がブロックされて見えないことだ。本人の背中だけでなく、かざしているスマホも邪魔になる。小さい展示品が多かったのでガラスケースに近づいて見たいのは分かるのだが、そこそこ混んでいる会場で後ろにいる人のほうが多い状況だった。後ろの邪魔になっていることに気がついて欲しかった。
10年前に訪れた大英博物館でもこんな経験をした。建物に入ってすぐのところに人だかりがしていたので何だろうと思ったらロゼッタストーンだった。一番のアイドルなのだと納得したが、群がっている人たちはみんな写真をとろうとしていたのだった。すると、スラブ系と思われる美女が私にiPhoneを手渡して写真を撮って欲しいと言う。しかたなしに美女とロゼッタストーンのツーショットを撮って返す。画面をチェックした美女がもう一回と言うのでその通りにしたら、今度はOKだった。彼女は自分の写真が欲しかっただけで、ロゼッタストーンには興味がない風だった。
博物館や美術館のいいところはそこにしかない現物があることだ。せっかく現物があるのにそれをしっかり見ないで写真を撮って満足するというのは私には理解できない。現物を初めて見たときの感動あるいは失望感はその場にしかないので、それが現物の醍醐味だと思う。質感や大きさを実感することも、いろいろな角度から見ることも現物を前にしたときしかできない。写真が欲しければ図録を買えばいいのだ。解説付きでベストのアングル、ベストの照明の写真が見られる。
今までのように写真撮影を禁止すればいいとは思わない。撮影ができるのはむしろいいことだと思う。だが、写真を撮る人が優先であってはならないし、撮影のマナーもあるべきだと思う。

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カテゴリー: 雑文

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