個人的な興味でアセモグルほか著『国家はなぜ衰退するのか』という本を読み、気がついたら再読三読していた。最初の動機は南アメリカやアフリカの多くの貧しい国が豊かになることができるのかを知りたいということだったのだが、トランプの数々の愚挙をこの本の枠組みで評価するとどうなるかに興味が移ってきた。
この本によれば、包括的な政治経済の制度が整っていてそれが正しく適用されるような中央集権的な権力がある社会は発展し豊かになる。「包括的」という言葉が原著ではどうなっているか分からないが、あまり見たことがない。簡単に言えば、知的所有権、財産権が保証され三権分立が確立し、マスコミの言論の自由がある(さらに国民のリテラシーが高い)社会ということだろうと思われる。
トランプは大統領令を乱発することで議会によるチェックを逃れた。最高裁は前回のトランプ政権のときに保守派の判事二人を送り込んで保守派が大多数を占めるようにした。大統領令の適法性の審査はこれからだ。アメリカの三権分立はあって無きがごとしになった。実はあのルーズベルトも裁判所に大統領令の発出を止められたことがある。このことは『国家はなぜ…』ではじめて知った。トランプはルーズベルトがやろうとしていたことを俺はやったんだぞと全世界に叫びたいのかもしれないが、裁判所というブレーキがないのは本当にまずい。もっとも、連邦最高裁が自らの権威を守るために関税は違法だと判決を下さないとも限らない。そうだとしてもトランプがあまりにも多くの大統領令を出したために、最高裁が審査しなければならない案件の数は最高裁の能力を超えている。
トランプは「アメリカを再び偉大にする」をスローガンにして大統領に当選したが、やっていることはすべてアメリカを知的な面でも経済的にも貧弱にすることにつながっている。
これも『国家はなぜ…』ではじめて知ったのだがアフリカのボツワナは国家の運営に成功して豊かになっているらしい。一頃日本の国債の評価がボツワナ以下になったことを嘆いた論調があった。そこにはアフリカを見下す偏見があったと思われるが、本書を読めば日本よりよっぽどまともな国でそのような国債の評価もむべなるかなとなる。本当に知らないことは恐ろしいことだ。