駄洒落について

「どうして雑文に駄洒落がないのか」という質問をある人から受けた。当然の疑問だが、雑文のカテゴリーの記事は私が面白いと思ったことを書いている。駄洒落は思いついたときの心の動きとか、相手の反応を楽しむものなので、文章に書いても読者の反応が分からないから面白くない。ただ、どの記事もできるだけ小さなオチをつけるようには心がけているので、雑文に関してはそういうことでご勘弁願いたい。
そう言えば半年ぐらい前に悲しい夢を見た。何かを買おうと思って行ったら行列ができていた。「ナランデンブルク交響曲?」と聞くと「そうだ」と答えが返ってきた。それだけの夢だが、すぐに目が覚めて、二重に悲しい思いをした。一つは「ブランデンブルクは組曲だろう。どうしてそんな勘違いを?(「協奏曲」でした。二重に間違えてしまった)」で、もう一つは「夢の中で駄洒落を言ってしまうほど、その機会に飢えていたのか」だった。駄洒落とは言えないくらい完成度の低いものではあったけど。
確かにこの1年あまりカミさん以外と話す機会はほとんどない。本当にさびしい生活を続けている。日本中の人がそうなのだろうけれど、いい加減どうにかしてほしい。
そう言えば、金田一春彦先生は講義の最初の時間に「講義のなかで必ず1回は駄洒落を言うからびっくりしないでください」とおっしゃっていた。
「私の友達で、夜床についたが全然寝られない。どうしてだろうと思ったら、今日は1回も駄洒落を言っていないことに気がついた。2階から下におりていって、家の人に駄洒落を言ったら安心してよく眠れた。そういう人がいます。」なるほど、そういう一日一回は駄洒落を言う人がいるのか。
「でもこれは私の友達の話です。断じて私ではありません。」
非常に疑わしいご発言だった。
金田一先生は半年の講義でご公約を守られた。(「駄洒落を言う」を敬語にするのはとても変だと今気がついた。)

他人の言った駄洒落が妙に心に残ったりすることもある。
10年ほど前に瑞鳳殿(仙台にある、伊達政宗の霊廟)に家族三人で行ったときのことだ。閉園間際だったが、帰り道で私がコウヤマキの巨木を見つけて「こんなに大きいコウヤマキは初めて見る」と奇声を発した。
するとどこから現れたか守衛さんらしき人が「そうでしょう。お客さんよくコウヤマキのことを知ってますね」(もう閉園だから帰りを急かしに来たかな)
「でもね、ここから20キロ離れた××にはもっと大きいのがあるんですよ。それには負けます。」
「ただね、このコウヤマキにはほかにない特徴があるんですよ。見てください。枝が曲がってるでしょう。」
「本当だ。」
「仙台は雪が降らないのに不思議ですね。でも曲がってるんですよ。カールしてるんですよ。」(何かある。何だろう)

「私ね。いろいろ考えたんですよ。そしたら分かりました。マキだけに、カールセル麻紀って言うでしょう」(やられた!)
娘がたまらず笑いだし、私たちもそれに続いた。楽しかった仙台の思い出である。

大学に赴任してしばらく経った頃、若いK先生が着任した。この方が駄洒落好きで、私は彼と二人で新しい言語技術を開発した。
たとえば、自分が思いついた駄洒落を相手に言わせるというのがある。学生1人とK先生と飲んでいたときに私が「このビールはエンドウ豆で作ってるんですね。豆は遠くから運んできたんですかね。」と言って、K先生をちらっと見る。
K先生「エンドウはるばるって言うくらいですからね。」
学生「どうしてわかるんですか?」
どうしてって、分かっちゃわないか?

相手が駄洒落を言いたいと察知してその駄洒落を言わせないように邪魔をするというのもある。
こういう楽しいことを知ってしまったあとで、コロナ生活が始まり、K先生とお話しする機会も消滅した。
そう言えば、徳之島に4ヶ月いたときは、人と話すことはほとんどなかったし、駄洒落を言う機会もあまりなかったが、今のような飢餓感はなかった。少なくとも徳之島にいたときは、私は金田一先生ではなかったようだ。

雑文の「駄洒落論」はこれくらいにします。今後、駄洒落を話題にすることは一切ありません。たぶんありません。あるかもしれま、いやないでしょう。

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カテゴリー: 雑文

2件のコメント

  1. 私も駄洒落は大好きですが、シュールな笑いも好きです。
    先日、ラジオで聴いて、笑ったものを紹介します。
    何れも小学生ネタです。

    夏休みの自由研究で、走れメロスについて、時速何キロで走ったかを父親と計算したそうです。その結果、歩く速度よりも遅かったそうです。
    それを知って、子供はこう呟きました。
    『走れよメロス』

    もう一つ。
    「打って変わって」を使い例文を作るように、先生に言われたところ、一人の子がこういう例文を作ったそうです。
    「兄は、注射を打って、変わってしまった」。

    こういうの、好きです。

    1. 今朝も言ってました。
      「どうしてそんなにソースをかけるの?}
      「酸味があるから、それが素材の味をまとめるんだ。酸味だけじゃない。」
      「本当?」
      「サンミ一体って言うくらいで」

      でも、ギャラリーがいないところで駄洒落を言っても寂しい。
      早く落ち着きませんかね。

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