スペイン語は?の言葉

待っていた接種券が来たので、早速予約をした。8月中には免疫が完成していると思われる。
そうなると、今まで移動を我慢していたところに行ける。一番最初に行かなければいけないのは国研だろう。国研の所蔵している外国の言語地図の情報をまとめるために研究費をもらっていて、去年はろくに国研に行けなかったので、そのお金を繰り越した形になっている。あと5回はどうしても行かなければならない。
国研にある外国の言語地図は英語ばかりでなく、ドイツ語フランス語スペイン語ロシア語などを解説や地図名で使っている。中国語もあるし、リトアニア語やモルダヴィア語もある。そのほかにもいろいろな言語のものがある。国研の歴史80年のなかで収集されてきたものだが、所蔵されていることはほんの一部の人にしか知られていなかった。
したがって、今までこうした言語地図の簡単なリストすら作られたことはないし、ましてや詳しい情報がまとめられたということもない。だが、これは誰かがしなくてはならないことなので、私が手を挙げたのである。
国研に行く前の2ヶ月で私がしなくてはならないことがある。スペイン語の学習である。国研の蔵書にはスペイン関係の言語地図が何種類かあって、かなり大量の解説文を解読しなければならないのだが、私は辞書を片手にしてもスペイン語を読む能力はない。
実は50年ぐらいのあいだに何度かかじりかけたのだが、どうしてもスペイン語を読まなければならないような状況ではなかったために、いつもちょっとかじっただけで止めてしまった。
「かじる」と言えば、私の脳内はかじりかけのリンゴならぬ語学が乱雑に散らばっている。ポルトガル語もイタリア語もロシア語もハンガリー語もそれぞれ入門書や辞書を何冊もそろえている。それどころか、読めるようになった日に備えて小説本も持っているが、どれ一つとしてものになっていない。
スペイン語と言えば、覚えているのは大学1年で一度だけ出席した授業でのH先生のお言葉しかない。
辞書を推薦してくださったのだが、「でも残念ながら、まだ十分な出来ではありません。どうしてだか分かりますか?」(分かるわけがない)
「この辞書を作った先生は頭髪がまだ残っています。辞書を一冊作ると禿げるんです。」(初めて知った)
強烈なお言葉だったが、スペイン語と言えばこんなことしか覚えていない私が情けない。「スペイン語は愛の言葉」なんて気の利いたことを言ってみたかった。最近買ったスペイン語の辞書の著者のお写真はどうなんだろうか。見たことがないが。

去年一回だけしかできなかった調査ではスペイン語で書かれた言語地図を何冊か写真にとった。普通はコピーするのだが、コピー機にとても収まらないような巨大な(ついでに言うと重い。ぎっくり腰になりかけた)本なので写真にとってデータにして帰るしかない。
写真をOCRにかけて文字データを校正してワードのファイルにするという作業をした。OCRを使ったことがある人なら知っているはずだが、OCRは読み取りの誤りがかならずある。スペイン語のOCRならなおさらで、しかも写真のなかの小さい文字なら余計にそうなる。
スペイン語の知識では初心者以下の私だが、不思議なことに何度も見ているとおぼろげながら意味が分かって、辞書を片手に校正することができた。それは私の怪しげなフランス語と比較言語学の考え方を知っていることによる。かなり多くの語はフランス語の単語をちょっと変形させたようなものでそのまま意味の見当がつくし、たとえば、mismoという語が何度も出てきたらこれはフランス語のmêmeと同じ意味だと分かる。フランス語でêとなるのはesのようにもともとsの子音が入っていたものだからである。たとえば、prêtre(司祭)は英語でpriestだし、crête(とさか)は英語でcrestとなる。英語がフランス語からこれらの語を外来語として取り入れたときにはフランス語はsを持っていたと考えられ、スペイン語はフランス語が失ったsを保持しているのだろう。このように考えるのは比較言語学で言う音韻対応の応用である。
そういうわけで、スペイン語を見て(決して読むとは言わない)いると半分ぐらいは意味が推測できてしまうのだが、書いてあることを正しく理解するためにはやはりきちんと勉強しなければならない。半分分かるということは、残りの半分でとんでもない勘違いをすることでもある。それは今回いやというほど経験した。
ところが、言うは易し行うは難しで語学の学習をまともにやろうとすると年齢を自覚せざるを得なくなる。10いくつかある不規則動詞の活用がどうしても頭に入らなくて半年前に投げ出したのだが、ワクチン接種の予定が決まった今、あと2ヶ月で初級ぐらいはできるようにしなければならない。なかなかきびしい。

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