マイナカードは本当にひどいことになっている。自分自身のことを振り返ってみるとデータ入力とシステム作りをずいぶんしてきたが失敗だらけだった。失敗を重ねた失敗のプロだからこそ他人の失敗の原因が分かるということもあるので、マイナカードの問題を私なりに考察してみたい。
まず、第一に頭に置かなければならないことがある。それは、たとえ一人分でもマイナカードの個人情報に間違いがあってはならないということだ。銀行の口座の名義が入力ミスで全くの他人になっていたら銀行の信用問題になる。それがマイナカードでは分かっているだけでも1万人以上の健康保険データが間違って紐付けされているという。それどころか、500もの自治体で間違った手順の紐付け作業が行われたことが判明していてそこでミスが発生している可能性があるという。
これだけのミスを銀行がしていたら、とっくに倒産していておかしくない。健康保険証の廃止は中止するべきだと思う。個人情報を政府にゆだねるのは信用があるからだ。誰にも信用されない仕組みを無理矢理使わせるのは社会不安につながる。
どうしてこんな馬鹿なことになったのか、私には分かるような気がする。何しろ私は入力ミスやシステム作成のミスについては年季が入っている。自分で入力した結果、ミスがあとで判明したこともあるし、入力作業を何人ものアルバイターにやってもらってやはりミスが多発したこともある。また、自分が作ったプログラムがうまく動かなかったり、誤動作したりしたこともある。失敗については大家の域に達している私だからこそ今回のマイナカードの失態の原因が理解できるのだ。
全体的なことを言えば、すべてのことの最大の原因は河野デジタル担当大臣が「スピード第一」と急がせたことにある。マイナカードの普及はスピード感が大事なので、それは間違っていない。だが、急ぐあまり全体の設計を細部まで十分に行わないで見切り発車で進めた。システムの作成(プログラミング)も短期間で行い、動作チェックを十分にしないで世の中にデビューさせてしまった。
全国津々浦々の自治体でIT化の進み具合は様々だ。データ入力やプログラミングに理解のある人材を適切に配置しているところもあるだろうし、そうでないところもある。何カ所か自治体を選んで一部のデータ入力作業を行って問題点を洗い出すことはしたのだろうか。そうすることで入力のシステムの改善もできるし、いつまでに完了するかの見積もりもできる。今回はそのような見通しもなしに締め切りを先に設定したのではないか。全国の個々の事情に対する目配りが欠けていた。私の狭い見聞でもIT化から取り残されているような役所があるのは分かる。小さい町村だったら無理をしてIT化をしなくても今までは済んでいたようなところだ。霞ヶ関の高いところにいては見えない下々の事情である。
健康保険組合が紐付け作業をしていると、組合が把握している住所とマイナンバーで登録されている住所が異なる組合員が必ず出てくるらしい。住所変更の手続きをどちらかで怠っているためだが、これでは紐付けできない。こういうケースも事前にテスト入力をしていれば発見できたし、仕事量の見積もりも正確にできたはずだ。
問題の一例を挙げると静岡市(県?)でマイナンバーと障害者手帳の紐付けで大量の間違いが起きていたことが判明した。一人の職員が担当し、生年月日と氏名が一致しただけで紐付けをしたのだった。山田太郎のようなありふれた名前であれば、同じ生年月日の全くの別人がいてもおかしくない。作業のガイドラインに従っていればこんな間違いは防げたろうし、もう一人の職員がダブルチェックをしていればミスを発見して修正できたろう。職員一人に作業を任せるという人事管理にも問題があったことになる。紐付け作業を一件一件手作業でやっていたようだが、問題のありそうなケースだけ残して、あとは自動化するというようなプログラムは作れなかったのだろうか。検討を要するケースを時間をかけて調べることができたはずだ。
手作業で入力する場合、多かれ少なかれかならずミスが生じる。ミスが起きることを前提にしてミスを減らす工夫、起きてしまったミスを見つけ出す工夫をしなければならない。ミスの発生をできるだけ防ぐような作業の方法(マイナンバーでは紐付け作業のガイドライン)を考え、そのうえでミスを検出するプログラムを作るということを私はしてきた。残念なことにプログラムで検出することができるのはミスの一部だが、やらないよりはずっといい。同じようなことを考えた自治体はきっとある。データ入力に理解のある自治体とそうでないところとの差がこんなところに出る。
マイナカードを健康保険証の代わりに使ったときに2割負担になるべきところが3割負担になるという現象が起きることがあるらしい。これはデータの誤りによるものではなく、プログラムに起因することだと考えられている。マイナカードで住民票を出そうとしたら全くの赤の他人のものが出てくるというのはマイナカードの出始めのころに指摘された問題だ。巨大なデータを相手にする巨大なプログラムなのでどこが間違っているのか簡単には分からない。小手先の対応でやり過ごしているらしいが恐ろしいことだ。
マイナカードのシステムもさんざんせかされて作成したもののようだ。本来だったら徹底的に念を入れて作るべきものをチェックが不十分なまま世に出したことで醜態をさらすことになってしまった。本来だったら時間をかけてコードを最初から最後まで見直さなければいけないのにそうしていない。これから先もマイナカードのシステムは新たな予想外のミスを演じることになるだろう。それでは困るので、ここは一旦健康保険証の廃止を何年か先送りしてシステムを根本から見直すべきだ。