プーチンはエストニアに侵攻するか

ウクライナとの戦いに一区切りつけたらロシアはバルト3国に侵攻するのではないかとNATO諸国が心配しているというニュースがあった。どうしてわざわざそんな心配をするのか、不思議だと思うのが普通の日本人である。 そこで、私の乏しい知識を振り絞って解説を試みたい。
バルト海沿岸に北からエストニア、ラトビア、リトアニアが連なっている。これを日本ではバルト3国と呼んでいる。それぞれエストニア語、ラトビア語、リトアニア語を話す民族が昔から住んでいて独自の歴史を持っていたのだが、今から300年ぐらい前にロシアに併合された。第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、20年足らずだったがロシアから独立していた。1989年ゴルバチョフ書記長の時代に再び独立を果たして現在に続いている。
プーチンにとっては300年間ロシア帝国やソ連の一部だったことでロシアの領域にいるべき地域だとなる。でもそれはプーチンの一方的な思い込みである。 最大の問題はソ連時代にロシア人が大量に入植したことである。これはソ連のロシア化政策によるもので、ラトビアやエストニアでロシア人の人口が40%に達している。1989年の独立でロシア人の地位は逆転した。ソ連時代はロシア語が公用語だったのに、独立後はラトビア語やエストニア語、リトアニア語が公用語になり、ロシア語はただの外国語になった。 ラトビアやエストニアは公用語の能力試験にパスしたロシア人にしか国籍を与えない。そうなるとロシア人の大部分は無国籍になってしまう。
バルト諸国にとってはこれだけの数のロシア人が国内にいるのは脅威でしかない。一方ロシア人の立場では今さらロシアに帰ってくださいと言われたところであちらには住むところも仕事もない。ラトビアにいるしかないのだ。 ロシアから見れば、同国人が国籍も与えられずまともな仕事もできなくて迫害されているということになり、自国民を保護するためという口実で侵攻が正当化できる。
2003年にラトビアの首都リガに国際学会で行ったことがある。博物館の学芸員や銀行の窓口にロシア人らしき人はいた。ラトビア語ができなければそうした仕事ができるはずはないので、たぶんラトビア国籍を取得したのだろう。
メールを日本に送ろうと思ってネットカフェのようなところに行ったら、仕事にあぶれた風の成年男子がたむろしていて不穏な雰囲気だった。危険を感じて早々に退散した。画面にキリル文字が出ていたところからロシア人向けのネットカフェだと思われる。ラトビアのロシア人問題を肌で感じた出来事だった。
20年以上前の話はこうだったが、若い人は学校でラトビア語やエストニア語を学んでいるはずなので状況は多少改善されていると思われる。
プーチンはウクライナでロシア人が迫害されている(ロシア語をウクライナの公用語から除外した)ことを理由にウクライナに侵攻した。 これが認められればバルト3国にも堂々と侵攻できてしまう。エストニアやラトビアが神経をとがらせるのは理由のないことではない。

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カテゴリー: 雑文

2件のコメント

  1. 「つぶやき」久しぶりですね。たまたまきのうの朝日新聞朝刊に「ウクライナ侵攻の次は―緊張高まるバルト3国」という記事がありました。ロシアとの国境近くの街エストニアのナルバは住民の90%以上の第一言語がロシア語だそうです。住民のアイデンティティは複雑でしょうね。

    1. ウクライナ戦争は一面では言語問題なんです。ハンガリーがウクライナ支援に消極的なのはハンガリー語話者のウクライナ国民がウクライナ語を強制されているからというのもその一例です。ウクライナだけでなく東欧の国はどこも多民族国家で大変です。リトアニアに学会で行ったときにリトアニア語アカデミーが立派なのに驚きましたが、リトアニア語研究が安全保障の一環なのだと気が付いて納得しました。

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