年中行事の危機

松本では夏になると青山様ぼんぼんという年中行事を小学生の子供達が行う。青山様は男の子の祭で杉の葉を積んだ神輿を担いで「青山様だいわっしょいこらさ」とかけ声をかけて町内を練り歩き、お賽銭を家々でもらう。そのときにお礼として「せいのせいの」と声を出して神輿を揺らす。
ぼんぼんは女の子の祭で浴衣を着て髪飾りをつけた女の子の群れが提灯を持って「ぼんぼんの唄」を歌いながら町内を歩く。どうも原型は守貞謾稿にある小町踊りらしいのだが、そこでは「ぼんぼんの唄」とほぼ同じ歌詞の唄をやはり少女達が歌うことになっている。幕末には京都や江戸で行われた華やかな祭りが今や全国で松本だけで質素な形で行われている。
青山様では元気な男の子の声が聞こえ、ぼんぼんは哀調を帯びた唄が情緒を感じさせる。この祭がなくなったら寂しいと大人は思うのだ。
青山様とぼんぼんは本来別のものだったと思われるが、青山様の行列の後ろにぼんぼんの少女達がぞろぞろと続くという形で一緒に行っている。これは私の娘の時代、30年前の話だ。
NHK長野では夕方のニュースで放送100年を記念して過去のニュースの録画を放映している。先週は平成7年の青山様ぼんぼんだった。娘が小学生だったのがこの頃で、放送されたシーンは町会は違うが娘が参加したぼんぼんと同じにぎやかさだった。今年は松本の中心街では16の町会が合同で執り行ったという。参加する子供が減ったことが原因だ。
これにはいくつかの原因が複合している。まず、少子化が大きい。中心街ではドーナツ化現象で居住人口が減っている。マンションが新しく建ってそこに住んでいる人はいるのだが、よそから移ってきた人が多く、松本の年中行事に理解がなかったりする。青山様ぼんぼんは子供会が主体となって行うのだが、子供会は町会の中の組織であると同時にPTAの地域支部のような位置づけになっている。PTAは強制参加から任意参加になり、子供会も任意参加になった。また、かつてはマンションに入居するときは町会にかならず入ることになっていたが、今はそういう強制はない。ということで、子供会の子供の数は激減している。
私たちの町でも青山様ぼんぼんに関わる子供の数はほんの数人しかいない。小学校のPTAが消滅したのも打撃になった。去年はぼんぼんの唄を歌う子供がいなくて台車に乗せたラジカセからCDで流していた。今年はラジカセがスマホに代わったが、情緒などない。杉の葉神輿も二本の棒の間に板を張って杉の葉を載せたもので大人には重いものではないが、低学年の少年二人が5分以上持って歩いたらへばってしまう。今年は男の子が3,4人だったから大人が助けたりしたのだろうか。
このままではぼんぼんも青山様も消滅するしかないように見える。日本のいろいろな伝統芸能や年中行事とおなじ運命をたどるのだろうか。

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カテゴリー: 雑文

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